メディアプロデュース専攻って何を学べるの?

ー高校生にもわかりやすく教えてもらいました!(後編)ー

 

 

こんにちは! 取材チーム3年の大矢です。
皆さんはメディアプロデュース専攻(以下メディプロ)で何を学べるのか、説明できますか? そう尋ねられると、実際に所属している学生でも回答に困ることがあります。大学のホームページやパンフレットで専攻の説明やカリキュラムを見られますが、そこにいる人たちの実際の雰囲気まではなかなか伝わってきにくいものです。そこで、だったら先生方に直接聞いてみよう!ということで、メディプロに所属しているお二人の先生方に取材させていただきました。
今回は、第2回に続く後編として、松井広志先生に伺った話をご紹介します。メディア論、社会学がご専門の松井先生からは、メディアとはなにかを詳しく教えていただきました。また、先生の個人的な経験を踏まえて、今の高校生の皆さんに向けたメッセージもいただきました。ここでしか聞けない、唯一無二の内容です。ぜひご覧ください!
では、本編へどうぞ!

 

ーー「メディプロで何を学べますか?」と聞かれた時、松井先生はどのように答えていらっしゃいますか?

松井先生(以下、同) 「メディア制作とメディア理論をバランスよく学べる」と答えています。
メディアプロデュース専攻の英語名称であるMajor of Media Theories and Productionを見ると、よくわかりますよね。メディア理論と制作、両方を扱うことができる専攻なんです。これは、具体性と抽象性を行き来することができる、という意味でもあるんですね。
「Media(メディア)」という単語は複数形で、単数形は「Medium(メディウム)」といいます。複数形のメディアは、個別のメディウムではなく、映像、声、写真、印刷物、文字など、全体としてのメディアを表しています。メディアの全体性を大きく捉え、メディアとは何なのかを考えることが「Media Theories」です。
そして、「Production」は広い意味での実践であり、手や身体を動かして作ること、表現する技術を学ぶということです。
二刀流なところが、メディプロの良いところなのではないかと思っています。

 

ーーなるほど、技術の習得に力点を置くことの多い専門学校との違いも、よくわかりました。

まさにそうです。メディアの理論と制作、二刀流で闘えるのはメディプロの大きな強みです。

 

ーー本学には人間情報学部もありますが、そことの違いは何でしょうか。

人間情報学部の方は、理系の学びと文系の学びを結びつけていくところに特徴がありますよね。理論には、文系的な理論と理系的な理論があります。
文系と理系の学問は何が違うかというと、まず文系の理論は人間社会から離れてはおらず、自身も研究対象に入っています。一方理系の学問では、ネイチャーサイエンス(自然科学)というように、自然現象のなかにある物理的な法則を探求していきます。自己と対象を切り離すことで抽象度を高め、自然物としての人間を研究しています。

文系の学問は、人間との関わり無くして存在しません。人間が暮らす社会を説明していきますし、みんなに理解してもらう必要がありますね。社会の中でのメディアのあり方を探り、現実そのものを扱おうとしている学部が、私たちがいる創造表現学部メディアプロデュース専攻だと思います。

 

ーー同じような対象を学んでいても、そんな違いがあるんですね。

ふたつの学部の決定的な違いは、研究対象との距離の取り方という言葉で言い表せるかもしれませんね。理系の学問にも軸足を置いている人間情報学部の研究方法は(多くの場合は)客観的で、対象と一定の距離を維持します。文系の学問に出発点があるメディプロの研究は、対象との距離が近く、根本的には「客観」は存在しないという社会学の考え方と呼応します。研究者も含めて、人間誰もがバイアスがかかっている(考え方に偏りがある)ことを認識して、社会や文化を見ています。これは、人間観やデータを見る視点の違いとも言い表せます。

 

 

――文系の学問の立場からメディア論をご専門に研究されている松井先生にとって、高校生や大学生のみんなにおすすめの本はありますか。

3冊挙げると、まず、社会学者である見田宗介の『現代社会の理論』ですね。「私たちが生きている現代社会の特性は何か」という根本的な問題を扱った本です。情報化と消費化というキーワードから、近代社会から現代社会への変化を理論的・歴史的に読み解いています。大きなテーマですが、コンパクトな新書で読みやすく書かれているので、すごくおすすめです。
2冊目は、みうらじゅんの『ない仕事の作り方』です。みうらじゅんは、すでに流行っていることやもうある仕事ではない、まだ「ない」ことを企画してイベントを仕掛けたりしてきた人です。この本の中では、「一人電通式仕事術」という言葉を使っています。こうした発想はメディプロ専攻での学びを実践することにも通じると思います。
最後は、『歴史とは何か』です。イギリスの歴史家、E. H. カーの本で、歴史とは「現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話」というのが有名なフレーズです。事実の集積だけでは膨大な歴史年表ではあっても、歴史そのものではない。後世の誰かがまとめてメディアに載せたコンテンツこそ歴史であるとも言い換えられるかなと。こうした人間の活動を再編集することの根本的な意味は、メディプロ専攻の学びにも重要だと思います。

 

写真は、左から順に次の通り。
・E.H. カー 著、清水幾太郎 訳、『歴史とは何か』、岩波新書、1962年(2022年に岩波書店から新訳が出版されている)
・見田宗介 著、『現代社会の理論:情報化・消費化社会の現在と未来』、岩波新書、1996年
・みうらじゅん 著、『「ない仕事」の作り方』、文藝春秋、2015年

 

――時代も著者もだいぶ異なり、分野的にも社会学だけでなく歴史学やエッセイ集も含む3冊だというところが、メディプロの学びがもつ射程の広さなんでしょうか。おもしろいですね。

そうですね。
今回は3冊に絞りましたが、そもそもはまず、専門書でもビジネス書でも、エッセイでも小説でも、マンガや絵本でも、どの本でも興味の赴くままに読んでいくのが良いと思います。もちろん量だけが重要ではないですが、いっぱい読むと内容面でもさまざまな考え方にふれる可能性が高まります。その意味では、すべての本がおすすめとも言えます。

 

――メディプロの授業で、高校生にお勧めしたいのはどんな科目ですか?

これも先ほどの本と同じで、どの授業も大事だと言えます。そのなかで3つぐらい挙げるとしたら、1つ目はまず作る授業です。例えば、「ライブ番組」、「スタジオ番組」、「テレビドラマ」などですね。現役のプロの方から、実践的な内容やノウハウを教わることができます。
2つ目は、「広告論」や「イベントプロモーション」などの科目です。これらも現場で実際に働いていらっしゃる方々が講師としてお越しくださっていて、講義を行います。実際のビジネスの現場と大学での学びをつなぐような科目ですね。
最後に、「メディア論」などの理論科目です。自分が担当している科目ですが(笑)、この専攻でしか学べない大事な理論科目なので、ぜひ多くの方に受講してもらえると嬉しいです。

 

――高校生のうちにやっておくと良いことは、なにかありますか。

「人のことを気にしすぎない」ことでしょうか。興味のあることをやったらいい!と思います。
メディアの歴史研究をやっているとよく分かりますが、ブームも「ふつう」という感覚も時代とともに変わっていきます。だからこそ、自分にとって今興味があることに没頭できると良いですね。周りを気にせずに、人と合わせるだけでなく、孤独とまではいかなくても一人の時間を大切にするように。
SNSでつながる社会には、今現在の、近い他者の影響を受けすぎるというデメリットもあります。インターネットは広い世界のようでいて、他者のごく一部しかいません。当たり前ですが、死んだ人はいないし、あるいは幼児や老人も少ない。だから一見逆説的ですが、本当の他者と出会うためには、ネットを遮断するときも必要です。例えば、読書をして何百年前の過去の人の考え方を知ったり、さまざまなメディアや文化にふれるのが重要ではないかと思います。

私は高校時に病気で入院したため、卒業が1年遅れています。当時は大変で、人生が嫌になってグレかけてしまい、勉強もしていなかった。
大学にも当初は行く気はありませんでしたが、「行っとかないとヤバいんじゃないか」という理由でその後浪人して、20歳すぎて大学に入学しました。ただ、そこから先は比較的順調で、30歳すぎで大学教員になりました。
人生グレかけていたのに卒業後は順調に歩むことができた、それはなぜか。自分のペースで進む練習ができていたからだと思います。自分で判断する練習、知識の蓄積があった状態で大学に行くことができました。浪人生のときも、受験勉強より他の読書の時間や、プラモデル作ったり、ゲームしたりする時間の方が多かったくらいなので(笑)。基礎的な教養やいろいろなメディアや文化にふれる経験があったからこそ、今があります。そうした意味で、大学生の時期のさまざまな経験も、社会に出た時に必ず強みになります。

早く世の中に出たい人も多いと思います。発信が求められる時代ですが、蓄積も同時にやっていくことが重要です。
自分の場合は、立ち止まっていたかもしれない期間は無駄じゃなかった。若いうちから発信する機会が多すぎるとバランスを崩してしまうし、すぐに人と関わりすぎると安易に発信してしまい、枯渇してしまいます。

 

――それを意識した上での一人の時間と、そうでない時の時間の過ごし方は、違いますよね。

そうですね。発信することをいきなり求めず、蓄積と吸収の重要性を意識することが重要です。息の長いクリエイターは、案外スタートが遅かったりします。吸収、力を蓄えることを重視してほしい。すぐに有用性を求めないことが大切だと考えています。

 

――たしかに、私も吸収と蓄積の時間を大事にしていきたいと思います。今日はありがとうございました!

 

 

ー取材を終えてー

松井先生の言葉で「メディプロとは何か」を教えてくださり、とても新鮮でした。取材チームで活動する私たちは発信することが大きな役目だと考えていましたが、今回の取材を通して、同じくらいかそれ以上に、情報や知識を吸収する重要性を感じました。これからもっと存分に新しいことに触れて、私たちにしか書けない記事を作っていきたいと思いました。松井先生に教えていただいた『ない仕事の作り方』に興味を持ったので、取材後に購入して読み進めています。
前編に続いて「メディアプロデュース専攻って何を学べるの?」の後編、いかがでしたでしょうか。おもに高校生の方々に向けた記事ではありますが、在学生や取材している私たちも、専攻で学んでいることを具体的に知ることができる機会になり、目標を明確にしていこう!と前向きな気持ちになれました。これからもメディプロにいる私たちの目線で記事を更新していきます。次号もお楽しみに〜!

 

取材日:2023年6月7日(水)
場所:松井研究室

今回の取材担当:
インタビュー&記事=大矢佳歩(3年生)
写真撮影=長谷川果穂(3年生)
※学年は2023年度のもの。